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既払金の充当方法

      2017/05/05

交通事故によって損害を被った結果,加害車両の任意保険会社や自賠責保険から医療費などが支払われる場合,
これが損害賠償金の元本に充当されるか遅延損害金に充当されるかが大きな論点となります。

*交通事故によって被った損害の賠償請求権については事故時から催告を待たずに当然に年5分の割合による遅延損害金が発生します
(最三判昭和37年9月4日民集16巻9号1834頁)。

最高裁は,平成16年12月20日判決で,交通事故で死亡した被害者の遺族が受領した自賠責保険金,遺族厚生年金及び労災保険法に基づく遺族補償給付について,民法の規定に従って,まず既に発生している遅延損害金に充当し,残額があれば損害元本に充当するという取り扱いを認めました。

一方,

最高裁平成22年9月13日第1小法廷判決は,不法行為によって傷害を受けその後に後遺障害が残った被害者が,労災保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付(障害基礎年金・厚生年金)を受けたときは,これらの各社会保険給付については,これらによるてん補の対象となる特定の損害と同質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきであるとの理由で,てん補の対象となる損害は,不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整を行うべきであると判示しました。

上記2つの判決については,矛盾があるように見えました。

そこで最高裁は,平成16年判決の一部を変更する形で,二つの判決の矛盾を解消しました。

すなわち,平成27年3月4日最高裁大法廷は,(労災保険法に基づく)遺族補償年金について被害者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を塡補することを目的とすることから,被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり,かつ,相互補完性があると指摘し,逸失利益等の消極損害の元本に充当されるという形で損益相殺的な調整を行うべきと判断しました。

その結果,被害者側が損害の補として受け取った金銭が自賠責保険金であった場合には,平成16年判決のとおり,まず既に発生している遅延損害金に充当し,残額があれば損害元本に充当することになります。

他方で,被害者側が受け取った金銭が公的年金給付である場合には,損害の元本に充当される(受け取った公的給付に相当する損害部分について遅延損害金は発生しない。)ということになります。

*なお,任意保険からの支払については最高裁判例がなく,裁判例が分かれています(遅延損害金から充当した例として東京地判平成22年3月26日自保ジャ1828号36頁。元本から充当した例として東京地判平成25年1月30日交通事故民事裁判例集46巻1号176頁)。

以 上

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